当研究会について

可能性を見出す事への挑戦

現況と将来展望

日本胸部外科学会において2005年に発表された、2003年度の呼吸器疾患を扱っている651施設からの全国集計では、年々増加の一途をたどり現在呼吸器外科領域の全手術症例数が47,599例あり、うち21,594例:45.4%が胸腔鏡手術で行われています。最も多いのが、気胸の治療で気胸の手術の88.6%がVATSで行われており、次いで肺良性腫瘍の71.1%、気胸を除く肺気腫は63.4%、炎症性肺疾患:58.3%、転移性肺腫瘍:53.1%となっております。

肺癌症例は20,982例の登録でうち7,503例:35.8%がVATSで行われており、縦隔リンパ節隔清も2003年にはすでに253施設中の43%の施設で実施され手術適応は今後もしだいに拡大していく事が予測されます。しかし肺癌に関しては臨床病期1期肺癌手術にたいする胸腔鏡手術の予後は標準開胸に比較して同等またはそれ以上とする報告が多くでていますが、低侵襲性や安全性に関する研究に於ける統計的有意差の報告はなく特にmuscle sparling techniqueとの比較は難しいのが現状です。この辺は今後の研究に委ねられております。

医療技術の進歩による低侵襲性な検査・治療方法の普及は一方では医療訴訟の増加にも繋がっているともいえます。医療側にも責任はありますが新しいことの開発にはマスコミの一様の取上げにより、患者は必ず良い結果が得られることが当然の如く期待して治療を受けます。従って、万が一発生するかもしれない小さな合併症、医療事故にも対処するためには、最初から医師と患者の治療に対する共通認識による信頼関係が最も重要な基盤であり、あくまでも誠実な対応が求められるものです、当然のことながら医師は技術面にのみ走るべきではありません。

術者は常により良い方法が本当にないのかを煩悶すべきです。低侵襲とは「正常な組織をできるだけ温存し、しかも病巣を完全にとる」ということであり、QOLとは、いかなるアプローチによっても完全治癒を目的とした手術でなくてはならないので術者にとり安全性を最も重視した手方を選択すべきでしょう。

本法の基本的な手技は、胸部外科領域における手術と同様ですが、ビデオモニターに映し出された術野の画面をみながら小さな創口から器具を挿入して行う特殊な技術が求められる手術です。従って、胸部手術についての経験豊かな指導医の下で下記事項についての適切なトレーニングを受け、技術を習得した後、本手法を計画する事が許されるものであり、術者に対する条件は本研究会創立時に作成された項目と変わりはなく、近未来にロボットによる手技が応用されても操作するのは医師なので基本的には同じです。

  • 手術時の突発的出血に対する救急処置を習得している事。
  • 開胸手術の周術期管理を充分習得したものである事。
  • 胸腔鏡下にみる各臓器の解剖学的構造の相対的位置関係を理解している事。
  • 胸腔鏡に関する手技の習得その意義について理解をしている。
  • 2次元のビデオモニター像下での深度感覚を習得している。
  • 遠隔操作による臓器触知感覚を習得している。
  • 拡大映像下での視覚-手指運動強調(Handeye coordination)を習得している。
  • 胸腔鏡手術に用いるすべての特殊機器類使用を習熟している。
  • 胸腔鏡手術を行うに必要な縫合、結索法などの特殊技術を習得している。

おわりに

先を見るということは困難なことですが、一例一例の手術を通じて先見をもつ習慣をもつ事、または先見をもつ努力によって新しい手法、研究が得られ、患者のためにも未来は開けるものと確信します。産学共同による内視鏡およびビデオ光学機器、胸腔鏡手術周辺器具の更なる開発、改良、進歩および手術手技の向上により胸腔鏡手術のさらなる安全性を高めることはわれわれに課せられた義務です。

そして低侵襲性手術の開発はわれわれに課せられた可能性への挑戦であり、わが国の得意とする分野です。これを機会にホームページを通じての迅速な情報伝達、施設間の活動の活性化をはかり、レベルの高い均質な手術の普及に努め、内外の人類福祉に貢献するとともに、研究会の益々の発展と若手学徒にとって魅力ある会となるように微力ながら貢献したいと存じます。