当研究会について

可能性を見出す事への挑戦

呼吸器胸腔鏡手術研究会
名誉会長 (故)成毛韶夫

はじめに

この度皆様のご支援により呼吸器胸腔鏡手術研究会のホームページが研究会の名称改定と共に新たに作られることに成りましたことは御同慶の至りと存じます。本会発展の為にこれまで努力されてきました諸先生に感謝申しあげると同時に、医師間のみならず国民の皆様への情報、連絡源として非常に貴重な存在となり、本研究会発展にいろいろな面で寄与するものと期待しております。

「より少ない侵襲による完全なる診断と治療」は誰しも望むところであるがゆえに目覚しい発展を続けてきた内視鏡外科手術は、消化器、胸部、内分泌、形成、乳腺、心臓血管、婦人科、泌尿器科、耳鼻科、整形、小児科と包範囲に広まりつつありますが胸部外科、中でも呼吸器外科領域における胸腔鏡手術(Thoracoscopic Surgery)は診断、治療に不可欠となり外科手術の主流とさえなりつつあります。

胸腔鏡手術の変遷

光学内視鏡器具の最初の開発者は1806年にドイツのPhillip Bozziniによるもので光源はローソクでした。臨床応用可能な胸腔鏡の導入は19世紀初にドレスデンのGeorg KellingがCoeliscopyと称して膀胱鏡による胸腔と腹腔の観察を犬で行ったのが始まりです。胸部疾患に対する内視鏡下手術、すなわち胸腔鏡手術は、1910年、スエーデンのJacobeusがCystoscopy膀胱鏡を用いて、結核による胸膜癒着の診断に用いたことにはじまります。

その後、Kremer, Graf, Kalkらによる機器の改良もあり、胸腔鏡による胸膜癒着焼灼術が確立しました。本邦でもその後同様の目的で人工気胸時の胸膜癒着剥離に胸腔鏡が紹介、使用されたが、当初のものは外径3.5 mmと細いことと操作が困難で危険であるとされたため普及しませんでした。木本らは1944年には外径6.5mmの「都築式改良胸腔鏡」なる直視胸腔鏡を開発し、20例の症例報告を行っています。 1950年代にはHeine, Geraciらにより胸膜炎の診断、肺生検による肺がんの診断に用いられています。

1960年代には優れた抗結核薬の出現による肺結核治療の変遷と共に人工気胸術は衰退し、その前処置である胸膜癒着剥離・焼灼術は消滅し、この頃はむしろ肺・胸膜疾患の診断に応用されるようになり、治療手段としての胸腔鏡は行われなくなりました。1970年代には武野がフレキシブル胸腔鏡を開発し1973年に自然気胸の治療に用いて以来、再び胸腔鏡が治療手段として用いられる事にもなりました。

自然気胸の治療には胸膜癒着焼灼術に代わり、接着剤や高周波、レーザーによる焼灼などが用いられました。1980年代には池田茂人による気管支ファイバースコープの開発により経気管支鏡的肺生検が普及したため、胸腔鏡による肺生検は減少したものの、胸腔鏡は癌性胸膜炎や結核性胸膜炎の診断や胸腔内血腫除去や膿胸の治療にも幾つかの施設では利用されていました。

一方、18世紀後半から始まった開胸手術は、19世紀初頭から導入された気管内挿管による吸入麻酔の普及により、しだいに手術適応も広がり、開胸術が安全に行われるようになり普及してきたわけですが、当時も今も開胸術の主流は後側方皮膚切開ですが、年代と共に前側方開胸、腋窩開胸、胸骨正中切開法、前胸部横断切開法、胸骨縦切開+前胸部横切開法、などの開胸法が考案され、更に近年アプローチの一つとして胸腔鏡手術(Thoracoscopic Surgery)またはVATS(Video-assisted Thoracic  Surgery)が導入され現在に至りました。

特に1990年代に入り、内視鏡およびビデオ光学機器、胸腔鏡手術器具の開発、それに伴う手術手技の向上が胸腔鏡手術を可能にし、著しい発展をもたらしその応用による低侵襲手術手技は診断、治療に不可欠なものとなりました。 古典的胸腔鏡手技が始まってからおよそ100年、現在のVATS(Video-assisted Thoracoscopic Surgery)になり、呼吸器外科領域の疾患に対する診断、治療が本格的に行われるようになってから約15年になります。

胸腔鏡手術の進歩

胸腔鏡手術の進歩は低侵襲性手術に挑戦する医師と患者の同意、胸腔鏡手術研究会の発展および学会活動、産学協同研究などによるものです。
胸腔鏡手術研究会The Japanese Association of Thoracoscopic Surgeryの創立委員会は1992年5月に開かれ、役員は以下のごとくでありました(敬称略)。

  • 顧問 武野良仁 末舛恵一
  • 会長 成毛韶夫
  • 監事 宮沢直人
  • 委員 井上宏司 大畑正昭 於保健吉 尾本良三 加藤治文
       栗原正利 小林紘一 近藤晴彦 柴田紘一郎 河野匡
       坪田紀明 永井完治 中川健 吉村博邦 若林明夫 高木啓吾

第1回胸腔鏡手術研究会は同年10月9日、国立ガンセンター内国際交流会館にて開催されました。その後毎年(1993年のみ2回)開かれ、1998年には5th International Symposium of Thoracoscopic Surgery(President: Tsuguo Naruke)が東京国際フォーラムにて開催されました。この研究会が短期間に発展した理由には内外の胸腔鏡手術に関する優れた指導者の存在と低侵襲手術に対する熱心な若き挑戦者の集団の600名からなっていたからです。

ちなみに欧米からの会員はAlbert Linder (German)、Anthony P. Yim (Hong Kong), David J. Sugarbaker (USA), Giancarlo Roviaro (Italy), Liu Hui-Ping (Taiwan), Luis Carlos Losso (Brazil), Olavo R. Rodrigues (Brazil), Randall K. Wolf (USA), Ramon Rami Porta (Spain), Robert J. Mckenna, Ju. (USA), Rene Jancovici (France), Stephen R. Hazeilrigg (USA), Michael J. Mack (USA), Akio Wakabayashi (USA) などです。

その後本研究会の流れとしては2000年より日本内視鏡外科学会に所属する呼吸器胸腔鏡外科クラブ、および2001年より日本呼吸器外科学会が主催する呼吸器外科胸腔鏡セミナーができ、2006年より呼吸器胸腔鏡外科クラブは名称を新たに呼吸器胸腔鏡手術研究会(会長:川原克信)となりました。
本研究会の発足から今日までにおよぶ、内外の学術交流、研究会主催のラボ、テレカンファレンス、胸腔鏡手術アトラスの作成、保険請求、医療器具開発、胸腔鏡手術学術調査などを通じて常に新しい研究活動とともに著しい胸腔鏡手術の進歩を迎えております。